映画『かくしごと』に挑む奥田瑛二の役者魂
74歳にして衰えることを知らない俳優・奥田瑛二。彼の最新作『かくしごと』では、杏が主演を務める本作で、主人公・千紗子の父親で、認知症を患う孝蔵という役どころを演じている。まるで別人のようなその演技力に圧倒されるが、彼がどのようにこの役づくりに挑んだのか、そしてこれまでのキャリアで培ってきたものについて語ってもらった。
名匠・熊井啓監督との出会い
長野県が舞台の『かくしごと』
『かくしごと』は、記憶を失った少年と出会った一人の女性・千紗子が、少年を守るために母親と偽って生活を始めるミステリー作品だ。この物語の舞台は長野県で、実際のロケも同地で行われた。長野県といえば、奥田瑛二が幾度も組んだ名監督・熊井啓の出身地でもある。
熊井啓監督との出会い
熊井監督との出会いについて聞くと、奥田は「大学に入って教養課程がありますよね。熊井監督との出会いは、僕にとっての映画におけるそうした期間、最初のベースとなり、とても中身の濃い時間でした」と語る。『海と毒薬』などの作品を通じて、熊井監督との仕事が奥田の俳優人生において大きな影響を与えたことがうかがえる。
プレッシャーを感じない役者魂
『海と毒薬』でのオーディション
『海と毒薬』では単独主演を務めたものの、当時プレッシャーを感じることはなかったという。「オーディションだということも知らなかったんですよ」と笑いながら語る奥田。さらに「主役に決まっていると思っていました。その頃は35~36歳で『金曜日の妻たちへIII 恋におちて』などで人気になっていた時期だったので、話が来たらもう決まってると思ってしまっていたんです」というエピソードも披露する。
短時間で決まったオーディション
奥田が驚いたのは、オーディションが非常に短時間で終わったこと。監督は奥田の後ろ姿を見たかったという。「瑛ちゃんがドアを出て長い廊下を帰っていったでしょ。その後ろ姿で君は決まったんだよ」と言われ、その瞬間に役が決まった。実際の映画の中でも、後ろ姿が印象的なシーンがあるという。
『千利休 本覺坊遺文』での準備
丸坊主で着物姿の生活
『千利休 本覺坊遺文』の撮影に際し、奥田は自ら丸坊主にして1年間着物で生活したという。「昔は撮影に入る前に1年以上時間があったんです。だからその期間、銀座の呉服屋で上下の普段着の袴と着物を5枚くらい作って、1年間ずっと着物で過ごしていました」と語る。
茶道の習得
さらに、裏千家の親戚筋のお宅に1年間通い、マンツーマンで茶道を習ったという。「『君で行くから』と言われてすぐに坊主頭にして、裏千家の親戚筋のお宅に1年間通ってマンツーマンで茶道を習いました」と述べ、撮影に向けて徹底的な準備を行ったことが伺える。
完璧な準備で挑む撮影
その後、撮影の1カ月前に「すまないが、お茶を習いに行ってもらえないか」と言われた際には、「嫌です」と答えるほどすでに準備が万端だったという。そして、実際に茶道を披露した際には、その完成度の高さからすぐに続ける必要はないと認められた。
熊井監督作品での教養課程
命がけで挑む映画制作
奥田は「それくらい熊井監督の撮る作品の重さというのがあったんです」と語り、命がけで挑む姿勢を強調する。三船敏郎さんや萬屋錦之介さんといった名優たちと共演する中で、その責任感とプレッシャーを感じながらも、熊井監督作品で教養課程をみっちりと過ごしたという経験が彼の基盤となっていることが伺える。
奥田瑛二の役者魂は、名匠・熊井啓監督との出会いを通じて培われたものだろう。現在もその情熱と努力をもって、名演技を見せ続ける彼の姿勢には感服するばかりである。今後の作品でも、その高い演技力と俳優としての魅力を存分に発揮してくれることを期待したい。